2015年8月14日

『歌舞伎 研究と批評』の特集「歌舞伎の戦後七十年」は一読の価値あり

私は歌舞伎学会というところに所属しており、学会からは年2回、学会誌『歌舞伎 研究と批評』が送られてくるのですが、前号の歌舞伎 53―研究と批評 特集:歌舞伎の戦後七十年 上と最新号である歌舞伎 54―研究と批評 特集:歌舞伎の戦後七十年 中と続く特集「歌舞伎の戦後七十年」は非常に読み応えがあり、一読の価値があります。

それぞれ特集に収録された論稿の目次を挙げておきたいと思います。

歌舞伎 53―研究と批評 特集:歌舞伎の戦後七十年 上
神山彰「歌舞伎の戦後七十年」
原道生「占領下の歌舞伎・文楽の想い出」
清水一朗「小芝居の終焉」
権藤芳一「戦後関西の演劇人たち」
中村哲郎「“風、楼に満つ”時代-戦後歌舞伎の昭和三十年代-」

歌舞伎 54―研究と批評 特集:歌舞伎の戦後七十年 中
清水一朗「戦後の新作歌舞伎・管見」
上村以和於「「東横歌舞伎」の時代」
近藤瑞男「戦後歌舞伎の完成-昭和四〇年代の歌舞伎-」
西村彰朗「昭和二十年代の大阪ミナミと関西歌舞伎界-戦後の関西歌舞伎の想い出から-」
神山彰「新劇・アングラから見る歌舞伎-一九七〇年前後を中心に-」

いずれも圧倒的な当事者性に眩暈がするほどでした。実際に戦後70年間の歌舞伎を見続けてきた長老たちが何の遠慮もなしに自分が感じたことを記しています。恐らく今後、若い人たちが戦後歌舞伎について研究しようとすれば、どの論稿も必読文献になるのではないでしょうか。

とくに面白かったのは53号の清水一朗「小芝居の終焉」、権藤芳一「戦後関西の演劇人たち」、54号の西村彰朗「昭和二十年代の大阪ミナミと関西歌舞伎界-戦後の関西歌舞伎の想い出から-」、神山彰「新劇・アングラから見る歌舞伎-一九七〇年前後を中心に-」でした。清水論文は、いまや存在しない小芝居の実態をよく表しています。権藤論文は、戦後関西の演劇評論家などについての列伝風のノートですが、関西の多くの演劇評論家が別に本業を持っており、いわばアマチュアとして歌舞伎を支えていたという事実に衝撃を受けました。ここで取り上げられている石割松太郎や三宅周太郎、山本修二といった大物から、山口広一、高谷伸、沼艸雨、そして藤井康雄といった人たちの著書には、私も大きな影響を受けました。よく古本屋で彼らの本を見つけるたびに、すぐさま買ったものです。

54号所収の西村論文は、まさに体験的関西歌舞伎論であり貴重なものです。すでに関西歌舞伎なるものは実体としては消滅してしまっているのですが、昭和20年代には間違いなく存在していた。私のような関西在住の者からしても、かつての“芝居の街・ミナミ”の情景が描かれる内容は新鮮です。神山論文は新劇サイドから見た戦後歌舞伎論ですが、同時に戦後の新劇・アングラ劇論にもなっています。新劇やアングラ劇については評価の歴史化が進んでいますが、実際に同時代に見た人からすれば、現在の歴史的評価に対する違和感があるのでしょう。そういった違和感を当事者として遠慮会釈なしに書いているので、じつに衝撃をうけました。とくに武智鐵二の評価については目からウロコの記述がたくさんあります。

今回の特集は次号で完結の予定ですが、いまから楽しみ。『歌舞伎 研究と批評』は学会誌ですが、一般書店でも専門書が充実した大型店なら置いているので、関心のある人は手に取ってみては。ときおり商業誌では読めない内容が含まれているのが魅力です。
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