2015年9月21日

『日本舞踊曲集成』の復刊を願う



よく日本舞踊は難しいと言われます。また、これもよく言われるのが「日舞は唄の文句を良く見ないと、わからないよ」ということです。確かにそうでしょう。ところが、それでは実際に唄の文句について調べようとすると、これがまた厄介なのです。そういったことを専門的に扱っているのは、ほとんどが大部の「ものの本」しかありません。しかも、流派の垣根という問題もあり、なかなか一般の愛好者が手を出せるような簡便かつ網羅的な入門書は得にくいというわけです。かくして、日本舞踊などというものは、一部特殊な愛好家のものとなってしまうのでした。そんな中、一般の愛好家のための非常に素晴らしい本がありました。演劇出版社から出ていた『日本舞踊曲集成』です。残念ながら長らく品切れが続き、古書市場でも非常に高価な本になってしまいました。こういった地味だけれども真面目な本こそ、本当に必要な本です。出版界には、ぜひ復刊をお願いしたいものです。

『日本舞踊曲集成』は、雑誌「演劇界」の別冊として「歌舞伎舞踊篇」「京舞・上方舞編」「素踊り・歌舞伎舞踊補遺編」の3冊が出ていました。いずれも雑誌の別冊という簡便な製本で、非常に廉価だったのですが、中身の充実度は素晴らしいものです。とくにすごかったのが2007年に刊行された「京舞・上方舞編」です。私も刊行後、すぐに購入したのですが、本当に驚きました。地唄の舞の伝承曲に加え、義太夫、一中節、常磐津節など全250曲の歌詞解説が掲載されています。“本邦初!京阪の舞の曲を集める”と銘打っていますが、まさにそのとおりでした。

従来、京舞・上方舞というのは、「御座敷芸」として特殊な発展の経路をたどっているので、その全貌を網羅的に紹介する書物はほとんどありませんでした。それを雑誌の別冊というかたちで、なんとも簡便かつ行き届いた編集によってあきらかにしてくれたのですから、驚くばかりです。「本書は、伝承曲を流派に偏らず収めた最初のものである」と、編者が「はしがき」で誇らしげに書いていますが、まったくもって、誇るに足る仕事だったといえるでしょう。ちなみに編者は岡田万里子さんです。2013年に京舞井上流の誕生で第35回サントリー学芸賞(芸術・文学部門)受賞を受賞しました。



私は、伝統芸能が生き残るためには、こういった質実剛健な資料集をもっと普及させる必要があると感じています。そうでないと、鑑賞の基盤がなくなってしまう。豪華な製本にする必要はありません。従来の並製本でかまいませんので、ぜひとも演劇出版社には『日本舞踊曲集成』の重版・復刊をお願いしたと思います。

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