2015年9月28日

橋之助が来秋に八代目芝翫を襲名へ-本来の芝翫のイメージを復活させて欲しい

中村橋之助が来秋に八代目中村芝翫を襲名することが決まりました。最近、歌舞伎界は寂しい話題が多かったので、大名跡の復活はなによりです。

中村橋之助さん、八代目芝翫を襲名へ 来秋、披露興行(朝日新聞デジタル)

橋之助には、ぜひ八代目芝翫として初代以来の“兼ねる役者”という本来のイメージを復活させるような活躍を期待したいと思います。

中村芝翫といえば、七代目、六代目(六代目歌右衛門)、五代目(五代目歌右衛門)と立女形となる名人が続いたことで、なんとなく女形の名跡というイメージがあるのですが、もともとは三代目歌右衛門が俳名として一時的に舞台に立ったのが初代となります。三代目歌右衛門といえば歴史的な大名人であり、文化・文政年間の歌舞伎界の頂点を極めた役者でした。とにかく万能型の役者であり、立役、若衆方、実事、女形、あるいは外道方までやってしまう元祖“兼ねる役者”でした。

四代目芝翫は、いわゆる“大芝翫”ですが、これも立役、実事、女形を兼ねる名優でした。幕末頃の錦絵を見ていると、やたらと大芝翫を描いたものが多いのですが、それほど人気があったということです。熊谷陣屋の「芝翫型」を作ったのはこの人。セリフの覚えが悪く、とにかく大雑把な仕事ぶりにも関わらず、姿形は良いし、きちんとウケるところはウケるという、まあ天才型の名人だったようです。三木竹二の『観劇偶評』を読んでも、芝翫に対する批評は細かな点で不備を指摘しつつ、最後は褒めるというのがパターンになっているよな気がします。ようするに、スターなのです。

橋之助は、こういった歴代の芸系を継承して欲しいものです。実際、最近の橋之助の舞台はすごくおもしろくなっている。気持ちのいい役ばかりでなく、実悪や色悪、敵役をやっても堂に入ってきました。とにかく現在の歌舞伎界は人がいませんから、橋之助のように芸域の広い役者は貴重なのです。松竹としても、八代目芝翫には主戦級投手として、バンバン登板してもらわないと困るはず。

そんなわけで、八代目芝翫の誕生に大いに期待したいと思います。

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