2015年7月8日
歌舞伎鑑賞の虎の巻‐『歌舞伎手帖』
ある人が「歌舞伎なんてものは、次に舞台で何が起こるかわかったうえで見るものだ」といっていましたが、まったくその通りでして、話の筋から演出方法まで分かったうえで見ることで、かえって役者の工夫や味わいが見えてくるものです。。だから番付を読めばストーリーから見どころまで懇切丁寧に解説されているわけですが、それなら普段からもう少し深く狂言の内容を予習したり、見どころもや解釈についても勉強したいと思えばどうするか。そんなときに鑑賞の虎の巻として座右に置いておくと便利な一冊が渡辺保氏の増補版 歌舞伎手帖 (角川ソフィア文庫)です。
これはもう、いまさら紹介するのも恥ずかしいぐらい定番の本ですが、やはり数ある歌舞伎入門書のなかで内容が質・量ともに群を抜いています。誰もが知っている有名な演目から、かなりマニアックな作品まで網羅し、「物語」「みどころ」「成立」「初演・作者」といった解説しており、さらに「蛇足」や「芸談」は作品をより深く理解する上で助けになる話柄が取り上げられていて非常に楽しい。
思い返すと、私が歌舞伎を見るようになってから最初に買った参考書がこの本でした。初版は昭和57年に駸々堂から出ていますが、私の手元にあるのは講談社から再刊された新版 歌舞伎手帖の方でした。
以来、何度読みかえしたかわかりません。おかげで、この本で紹介されている内容が私の作品解釈のベースとなっています。いまになって思えば、ところどころに渡辺氏独自の見解がちりばめられていることにも気づきます。そういう再発見があるので、繰り返し読んでも飽きないわけです。現在では文庫という簡便な形で再刊されているのも喜ばしいことです。歌舞伎の作品についてひととおり知っておこうといういう人には、ぜひ手元に置いてもらいたい1冊だといえます。